顎変形症とは簡単に言うと,
上顎または下顎の骨の位置が平均値から外れていて,正常に咬めていない状態のことです.
なので,治療は顎の骨を切って平均値に近付ける事になります.
今回は,
- 顎変形症の分類
- 顎変形症の治療の流れ
- 注意事項とQ&A
について書きますので,参考にしてください.
顎変形症の分類
顎変形症は英語で
DentoFacial Deformitiesと書かれ,
Dento=歯顎
Facial=顔面
Deformities=変形症
の頭文字を取ってDFDと略されることが多いです.
jaw deformityと書かれることもありますが,DFDの方が一般的です(私はそう習いました).
これはいわゆる奇形の一種であり,疾患として捉えられます.
注意してほしいのは,一般的な矯正治療とは異なり骨格的な問題があるということです.
一般的な矯正治療は骨格的な異常は認めず,歯の位置に異常があるだけなので
歯を動かせば問題は解決します.
けれども,顎変形症は骨格から治さないと改善しません.
歯だけで治そうとすると,むしろ悪化する可能性もあります.
なので,治療は保険適応です.
Twitterでも書きましたが,
手術の目的は「正しい位置で咬める骨格にすること」です.
決して,「審美的改善」のみを目的にしていないので,ご注意下さい.
審美的改善のみの修正の場合は美容整形を行って下さい.
具体的にどのような場合が対象となるのか,写真とともに説明します.
正常な咬合
先に正常な骨格,咬合の状態を示します.
上顎と下顎の骨の位置が正常で,
赤い線で示している上下の第一大臼歯がしっかり噛み合っている状態が正常な状態です.
骨格性上顎前突症
これには横から見て
- 上顎が平均値より前方に位置している状態
- 下顎が平均値より後方に位置している(相対的に上顎が前方にある)状態
の2種類があります.
いわゆる,”出っ歯”と言われます.
下の画像では臼歯が噛み合っていないですが,模型上噛み合わせれなかっただけです.
実際は臼歯部は噛み合います.
骨格性下顎前突症
これにも横から見て
- 上顎が平均値より後方に位置している(=相対的に下顎が前方に位置している)状態
- 下顎が平均値より前方に位置している状態
の2つがあります.
いわゆる,”受け口”と言われます.
顔面非対称
これは正面から見て,オトガイ部が左右のどちらかに大きく偏位している状態のことです.
骨格性交叉咬合
正しいかみ合わせは上顎の歯が外側にあって,下顎の歯は内側にありますが,
それが逆転して,上顎の歯が内側,下顎の歯が外側にある状態のことを交叉咬合と言います.
顔面非対称の人の方に多いですが,
上顎と下顎の幅径(骨の幅)が違う人もいます.
骨格性開咬
開咬は先に臼歯(奥歯)が接触して,前歯で咬むことができない状態のことです.
開咬は,幼少期の悪習癖が原因となっていることも多いので,ご注意下さい!
重度過蓋咬合
開咬とは逆に,かみ合わせが深すぎて,
咬んだ時に上顎の前歯で下顎の前歯が隠れてしまう状態のことです.
顎変形症の治療の流れ
治療の流れを大まかに説明します.
所々,順番が入れ替わる可能性もありますが,全て必要なステップです.
矯正歯科と口腔外科の連携がとれていない場合は,どこかしらで不具合が生じる可能性があります.
ここを受診しなければ,治療が進むことはないです.
重要なのは,顎変形症の治療経験が豊富にある専門医が居るところを受診して下さい.
顎変形症の場合,矯正歯科単独で終了することはありません.
手術が必須になりますので,そちらと連携していなければ不可能です.
ですので,大学病院や矯正専門の歯科医院が良いかと思います.
先に矯正歯科に行ってから,口腔外科に来ることが多いですが,
口腔外科を先に受診することもあります.
口腔外科では,実際に手術が適応であるかどうかの判断をします.
矯正歯科でいくら顎変形症であると診断されても,
手術適応が無ければ,その先の治療を進めることはできません.
術前矯正で歯を動かしても基本的に骨が大きく動くことは無いので,
この時に取った資料を元に矯正歯科の先生と相談しながら治療計画を立てます.
こちらも矯正歯科と同様に,顎変形症の治療経験が豊富にある専門医が居るところを受診して下さい.
STEP1, 2を終えると,術前矯正に入ります.
術前矯正の期間は,症例によって異なるので一概には言えません.
大体の人が1〜2年程度かかります.
この間はしばらく口腔外科を受診することは少ないです.
術前矯正の終了の目処が立ったら,口腔外科を受診して手術の予約を取得します.
術前矯正が終了したら,手術です.
入院期間は1〜2週間のところが多いのではないでしょうか.
海外だと,翌日退院して近くのホテルで数日経過観察だそうです.
入院費用がめちゃくちゃ高いから・・・
退院後もしばらくは通院してもらって,経過観察をします.
ご飯がある程度咬めるようになるには,1ヶ月くらい必要です.
骨がしっかりくっつくには3ヶ月位は必要になります.
術後のリハビリは個人差がありますが,3〜6ヶ月間程,必要になります.
手術が終了した後,骨がまだ安定していないので,直ぐに術後矯正が始まるわけではないです.
けれども,ワイヤーの交換や術直後の評価も必要であるため,矯正歯科を受診する必要があります.
骨が安定した術後3ヶ月位から,術後矯正が始まります.
これは必要に応じてですが,
骨がくっついた後,骨を繋いでいたプレートを除去する手術を行います.
無理に除去する必要も無いですが,除去される方が一般的です.
大体,術後半年〜1年の間に行われることが多いです.
これ以上長く置くと,プレートが骨に埋もれてしまって,除去するのが大変になります.
口腔外科での経過観察は術後が落ち着いたら,頻度は半年〜年単位になることが多く,
3〜5年程度経過したら通院の必要がなくなるところが多いと思います.
注意事項とQ&A
- 治療を途中で辞めた場合はどうなるの?
-
治療を途中で辞めた場合は,過去にさかのぼって自費治療として請求をされる場合があります.
ですので,よく考えてから治療を開始して下さい.
- 治療期間はどのくらいかかりますか?
-
治療は術前矯正〜手術〜術後矯正すべてを含めて少なくとも,3年はかかることが多いです.
矯正科の先生に相談して下さい.
- 手術のリスクはありますか?
-
術後の痛み,腫れはほぼ必発です.また,術後感染や神経麻痺のリスクも少なからずあります.
私は経験したことないですが,まれに輸血が必要の場合もあります.
ごくまれに死亡事故もあるようです.
- 術前矯正すると,治療開始前より噛み合わせが悪くなると聞いたけど?
-
術前矯正は,術後の噛み合わせを予想・想定して歯を動かします.
なので,顎の骨に対して良い位置に持ってくるので,治療開始前よりも噛み合せが悪くなることが一般的です.
- 治療っていつ頃始めれば良いの?
-
顎変形症の場合,手術を行うことが前提となっているので,手術は二次成長が終了してからになります.
女性の場合は高校生〜,男性の場合は大学生〜ということが多いです.
何歳まで適応か?ということも聞かれますが,一応上限は無いものの,手術を出来ないことがあります.
未成年の場合は親の同意も必要なので,親子での相談が必須です.
- 形成外科と口腔外科では何が違うの?
-
形成外科でも顎変形症の手術は行っています.もちろん,それが悪いということはないです.
けれども,基本的に形成外科は医師,口腔外科は歯科医師です.
形成外科で治療を行った場合は審美性は良いかと思いますが,咬合に関して専門では無いです.
口腔外科の先生は歯科領域の知識があるので咬合まで考えて治療を行いますし,矯正科の先生とお互いに意見を出し合えることが多いです.
まとめ
顎変形症とは
骨格的な異常の問題で,正しく咬合出来ない状態のことであり,
歯の矯正だけでは改善されず,治療には手術と矯正治療が必要になる疾患のことです.
疾患であるため保険治療の適応ではありますが,
- 手術のリスク
- 治療を途中で中断できない
- そもそも手術が適応できない
ということもあるので,診断には矯正歯科と口腔外科両方を受診する必要があります.
受診する医療機関は専門医の有無だけではなく,治療経験が豊富なところを選ぶことをオススメします.
決して簡単な治療では無いですので,よく考えて治療を受けて下さい.
審美目的の治療では無いですが,骨格が正常値に近付くと審美的にも改善することが多いと思います.
以上,参考になれば嬉しいです.
この記事が参考になりましたら,周囲の人に紹介してもらえると嬉しいです.
それでは,次回もお楽しみに〜
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